About us 情シスのじかんとは?
(※1)の調査結果を俯瞰してみると情シスの業務内容の全体像が浮き彫りになりました。皆様も日々感じているかもしれませんがシステムに関するヘルプデスク業務は最も大きな割合をしめ、6割を超えることがわかります。調査の内容を詳しくみていきましょう。
まずは、今回言及するPR TIMESの調査について、ポイントを整理してみましょう。
これは「情シス担当者の業務状況」や「外部委託への依存度」などをアンケート形式でヒアリングしたもので、その中には以下のような項目が含まれています。
今回特に注目したいのは、情シス担当者が「社内ヘルプがしんどい」と回答している割合が60%超にものぼるという点です。これほどまでに多くの担当者が負担を感じている背景には、コロナ禍を経てリモートワークやオンライン会議などIT関連の業務範囲が拡大したこと、さらに社員一人ひとりのIT活用場面が増え、問い合わせが爆発的に増加している現状があると考えられます。
最近ではオフィス回帰の社会的な流れもみて取れますが、コロナ前のように全員が出社する前提の業務形態になるとは考えづらく、今後もリモートワーク化によるヘルプデスク業務需要は増え続けるでしょう。
この調査結果だけを見ても、「情シスが大変そうだ」という印象以上の情報はあまり得られないかもしれません。
しかし、調査結果を本に考察すると、“しんどさ”の主な要因としては以下のようなものが多いようです。
業務内容が幅広すぎる:
PCトラブルからソフトウェアライセンス管理、さらにはセキュリティリスク対応まで。人材育成が難しく、属人的になりがちです。
人的リソース不足:
中小企業では情シス担当が1~2名、もしくは専任者不在で兼任しているケースも。単純に人員が足りていない事も問題です。
問い合わせ対応の属人化:
ノウハウが共有されないまま、一人の担当者に負荷が集中してしまう
重要度の理解不足:
IT投資の重要性、情シスの疲弊や業務効率化の意義は他の部門や経営者にはわかりづらく、効率化のための投資も滞りがちです。
これらの背景が複合的に絡み合うことで、「担当者が常にアップアップの状態」となり、心身ともに疲弊してしまうのです。
今回の調査では、「回答者の6割以上が『社内ヘルプがしんどい』と感じている」というデータが明確に出ていましたが、筆者の体感としては、特にPCやツールに不慣れな社員が多い組織だと、休憩時間や業務時間外にも急な連絡が来るケースが散見されます。
筆者は過去に大手ネット系企業で、JV(ジョイントベンチャー)でマネジメントをしていた時の出来事です。従業員数100名程度でした。社内システムのIT管理者が私を含めて2名しかおらず、問い合わせ専用のメールやチャットを整備していたにもかかわらず、「とりあえずあの人(私)に聞けばいい」という空気がありました。
社内では「すぐ聞けるから手軽」という認識なのですが、実は「ITサポートが個別対応に陥りやすい問題」が常に潜んでいるのです。一度は情シスでマニュアルを作り、周知徹底の研修も行いました。しかし、慣れたやり方からはなかなか抜け出せず、「直接問い合わせ」をする人が後を絶ちませんでした。
その結果、電話・チャット・対面での突然の呼び止めなど、問い合わせのチャネルが散乱し、担当者としては“どの問い合わせから先に捌けばいいのか”が分からなくなるほどでした。実はこれ、「我々人類が人間関係を保てるのは150人まで」という、人間としての修正にも関係しています。1993年、英国の人類学者ロビン・ダンバーは、人は150人以上とは意味のある人間関係を結べないことを理論として発表しました。
(※2)逆に言えば150人未満であれば「誰が何を知っているか」(トランザクティブメモリーとも言います)を認知でき、システマティックに対応する必要性を感じません。
ある意味人間であれば仕方のない事だとも言えるのです。
社内ヘルプ対応に追われがちな情シスこそ、経営の武器として進化できる可能性を秘めています。理想はIT投資やリソース拡充の改革ですが、予算不足や経営層の理解不足も根強いもの。そこで、まずは低コストかつ実践しやすい“折衷案”や個人レベルの改善策から着実に前進を目指しましょう。
取り組みを重ねれば、情シスの疲弊を和らげ、組織のIT力を底上げする足がかりになります。
マネジメントの立場から見れば、「情シスは経営の武器になり得る」と捉えることが理想です。単なるヘルプデスクではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役として組織の付加価値向上に寄与する存在になり得ます。理想論としては、以下のような取り組みが挙げられます。
・情シス担当者の増員や外部リソース活用で負荷を分散
・問い合わせ管理システムや生成AIなども用いたの運用体制を整備
・情シスが普段どんな業務を行い、どんな貢献をしているか“見える化”する
・情シスへの予算配分を「コスト」ではなく「投資」と捉えられる仕組みづくり
・教育制度の充実や、IT担当者が継続的にスキルアップできる環境づくり
・事業目標に紐づけた、プロジェクト計画への情シス参加
とはいえ、中小企業の場合は「IT予算がすぐには確保できない」、「経営層にITリテラシーが低い人が多い」など、さまざまな理由で理想の状態にすぐ移行できないことがほとんどです。そのため、実際には“折衷案”を模索する必要があるでしょう。
・完全な問い合わせ管理システムをいきなり導入するのではなく、無料または低コストの管理ツールからスタート
・効果を段階的に示しながら、徐々に予算拡大を図る
・社内ヘルプの中でもネットワーク管理やクラウド運用などは外部ベンダーと契約し、定期メンテナンスを委託
・基幹的なサーバ保守をアウトソースし、情シス担当はユーザーサポートにリソースを集中できる体制を築く
・小規模研修を経営層も巻き込んで行う
・経営者や管理職にも簡単なIT基礎研修を実施し、情シスが何をやっているのか実感してもらう
・部下や現場担当者へのリテラシー教育の「背中を押してもらう」形にする
こうした“折衷案”を活かしながら徐々に体制を整え、最終的には理想に近づいていくというステップが、現実的かつ着実なアプローチです。
「社内ヘルプがしんどい」と嘆くだけでは、現場は一向によくなりません。しかし、経営層がすぐに大規模なIT投資をしてくれるかといえば、そう簡単ではないのも現実です。そこで、まずは「個人レベルで実行できる小さなアクション」をいくつか紹介します。
①問い合わせチャネルの一元化を主導する
問い合わせ管理ツールや専用のグループチャットを用意し、「そこから連絡してもらう」ことを徹底する「どこへ連絡すれば良いか」を周知するだけでも担当者の混乱を減らせます。
②よくある質問(FAQ)の拡充と生成AIの導入
問い合わせが多い内容をピックアップし、簡易マニュアルやFAQを社内に公開しましょう。合わせて有効なのが生成AIです。RAGという技術を使えば自社独自の情報を読み込ませ、回答させることができます。
③スキル共有と後継者の育成
情シス担当が一人で抱え込まず、「困っている部署には、ある程度ITに強い人を1名ピックアップしてもらう」などの体制づくりも有用です。「ITが好きな社員」や「部門内で頼りにされがちな人」と連携することで、属人化を少しでも緩和しましょう。
自分の周りから少しづつ変えて成果を出していく事も将来の経営陣の説得やIT投資の拡大には有効です。是非自分からアクションを起こしましょう。
著者:犬を飼っているゴリラ
大手IT企業に入社し、フロントエンド、PFシステムの開発に従事。その後、IaaSサービスなどの各種サービス事業開発に携わったのち、大手HR・販促事業会社に転職した。2018年にMBAを取得し、現在も国内大手メーカーの新規事業企画、プロダクトオーナーなどを担っている。
(TEXT:犬を飼っているゴリラ 編集:藤冨啓之)
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