私たちが日々向き合う「レガシーコード」は、保守の困難さや技術の陳腐化といった課題を抱えていることが多いものです。レガシーコードと聞くだけで、頭を抱えたくなってしまう人もいるかもしれません。
しかし、過去のソースコードの中には、メモリやCPUといったリソースが制限される中で最大のパフォーマンスが発揮できるよう工夫されていたり、革新的なアイデアが活かされていたりするものも少なくありません。今日のオペレーティングシステム設計やプログラミング言語、ネットワークの基本設計に大きな影響を与えているソースコードも多く存在します。
技術の進化が著しい現代だからこそ、これらのコードが持つ普遍的な設計原則や問題解決へのアプローチは、私たちに多くの学びを与えてくれるのではないでしょうか。
本記事では、このような「過去の負の遺産」ではなく、技術革新のきっかけともなったソースコードを紹介していきます!
それでは、どのようなコードが伝説として語り継がれているのか、具体的にその「すごさ」と共に見ていきましょう。
1960年代、アポロ計画で人類を月へと送り込んだ宇宙船「アポロ司令船」と「月着陸船」に搭載されていたのが、アポロ誘導コンピュータ(AGC)です。
当時の技術的な制約は、現代では想像もできないようなものでした。搭載メモリはわずか数KB~数十KB、CPUのクロック周波数は約2MHzと、現代とは比較にならないほど低いスペックだったのです。この限られたリソースで、宇宙船の航法、誘導、制御というミッションクリティカルな処理をリアルタイムで実行する必要がありました。
AGCのすごさは、「ソフトウェアエンジニアリング」という考え方を世界ではじめて提唱・実践したことにあります。特に、信頼性・リアルタイム性・安全性を担保するための重要な技術要素として、非同期処理と優先度付きタスク管理の仕組みを実装した点が、非常に先進的であったといえます。
実際に、月面着陸の際、システムのオーバーフローによるアラートが鳴り響く中、アポロ11号は無事に着陸を果たしました。これは、優先度付きタスク管理機能によって、システムの処理能力が限界に達しそうになった際、システム全体を停止させるのではなく、優先度の低いタスクを中断し、最も重要な着陸の処理の実行を継続したことによります。
AGCの、ミッションクリティカルなシステムにおける信頼性を追求し、想定外の障害が発生してもシステムが機能し続けるというフォールトトレラント(障害許容性)な設計思想は、マルチタスク処理の礎となっています。現在におけるシステムの設計思想に大きな影響を与えた、代表的なソースコ―ドであるといえるでしょう。
私たちが普段使っているインターネットの基盤を築いたのが、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)に代表される初期のインターネットプロトコル群です。
TCP/IPは、米国防総省のARPANETプロジェクトによって1970年代に開発されました。
TCP/IPの設計思想の核にあるのは、シンプル・堅牢性・分散型という原則です。ネットワーク層(IP)はデータをベストエフォートで宛先に届けることだけに専念し、通信データの信頼性担保はトランスポート層に位置するTCPが担うという「エンドツーエンド原理」を採用しました。この役割分担により、新しい通信プロトコルなどが登場しても、ネットワークの基本的な仕組みを変更することなく柔軟に対応することができるようになりました。
また、RFC (Request for Comments) という誰でも閲覧・提案できる文書を通じて、オープンな議論を重ねながら仕様が策定されたことも、TCP/IP開発における特徴です。透明性の高い開発プロセスが、世界中の研究者や技術者の協力を促し、インターネット技術の発展を支える大きな要因となったのです。
TCP/IPにみるシンプルな役割分担がもたらすスケーラビリティと相互運用性の高さは、大規模なシステム設計における普遍的な指針となっています。また、オープンな技術開発プロセスのメリットが最大限に活かされた事例であるともいえます。
プログラミングの「すごさ」は、エンターテインメントの世界でも大いに発揮されてきました。限られたハードウェア性能の中で、いかにプレイヤーを夢中にさせる体験を作り出すかというのが、プログラマーの腕の見せ所です。後世に大きな影響を与えたゲームとして、「Doom」と「パックマン」を紹介しましょう。
1993年にリリースされた「Doom」は、当時の非力なPCで滑らかな3D描画を実現し、ゲーム業界に革命を起こしたゲームです。
開発元であるid Softwareが考案した「Doomエンジン」は、壁を線分として扱うことで高速な描画を実現する「バイナリ空間分割」などの革新的なアルゴリズムを駆使し、完全な3Dではないものの、プレイヤーに圧倒的な没入感を与えました。このコードは後の3Dゲームエンジンに絶大な影響を与えたといえるでしょう。
また、1980年代のアーケードゲーム「パックマン」は、わずか4KBのROMに詰め込まれたプログラムで、キャラクターの動きを実現するアルゴリズムや、効率的なグラフィック表示のための工夫が凝らされていました。
特に秀逸なのが、敵キャラクターである4匹のゴーストの動きです。それぞれが「追いかける」「待ち伏せする」「気まぐれに動く」といった個性的なアルゴリズムで制御されており、単調ではない奥深いゲーム性を生み出しています。
「Doom」「パックマン」の2つは、当時のハードウェア制約をソフトウェアの創意工夫でカバーした例として、今もなお多くのエンジニアに語り継がれるプログラムとなっています。
今もなお語り継がれる「伝説のソースコード」は、単に古いプログラムというだけでなく、時代を超えた普遍的な価値があるものです。
過去のエンジニアたちが技術的な課題に果敢に挑み、知恵と工夫を結集して生み出したソースコードからは、現代の私たちも多くのことを学べるはずです。
日々の業務の中で、システム開発の難しさや、レガシーシステムの維持・刷新に頭を悩ませることもあるでしょう。しかし、もしかすると、皆様が日々向き合っている現場や、これから関わるプロジェクトの中にも、まだ光の当たっていない「伝説」と呼べるようなソースコードが眠っているかもしれません。
過去のエンジニアたちが、制約の中でいかにイノベーションを生み出してきたかを知ることで、新たな「伝説」を生み出すためのヒントが得られるはずです。
木曜日の夕方に仕事で疲れた脳みそをリフレッシュしたいとき、一人でゆっくりしたい夜、ちょっとした空き時間に、気軽に「つまめる」ソースコードの話題をお届けします。
まるで隠れ家バーでマスターが語るウンチクのように、普段は見過ごしがちなコードの奥深さや、思わず「へぇ〜!」と唸るようなユニークなアイデア、クスッと笑える小ネタを、ソースコードの世界を熟知した「情シスのじかん」がご紹介します。
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