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近年、情シス業務を外部の専門業者に外注する中小企業が増加しています。
2024年9月、コンピュータ周辺機器メーカー・株式会社バッファローは、中小企業を対象に実施した「情シス業務の外部委託に関する実態調査」の結果を発表しました。これにより、日本の中小企業のうち実に70.3%が、何らかの形で情シス業務を外注している実態が明らかになりました。
情シス業務を外注する主な理由は、次の通りです。
[情シス業務を外注する理由]
第一位:専門的知識・スキルを持つ人材が社内にいないから
第二位:IT人材の採用コストを削減したいから
第三位:情シス担当者の負担を軽減したいから
このバッファローの調査結果からは、「外注したくてしている」というより、「外注せざるを得ないからしている」という実態が垣間見えます。
データや業務のデジタル化、そしてDX推進が求められる中、情シス部門の業務範囲は拡大しています。あわせて各種IT技術も日々進歩しており、一つひとつの技術をキャッチアップしていくだけでも大変な状況です。
そんな中、社会全体でIT人材が不足し、採用コストが高騰。特に中小企業では、採用に費やせるリソースが限られているため、問題はより深刻です。さらには、労働時間短縮や残業規制など、働き方改革の影響によって、さらに人手が不足していく傾向にあります。
かつて情シス部門は、パソコンやITインフラの管理を行う電算室のような存在でした。しかし、現在では、多くの情シス部門がプロフィットセンターに変わることを周囲から求められています。
そんな中、外注せざるを得ない状況になったとしたらどうなるでしょう。
「外注が増えれば、自分達が関与できる範囲が狭まるのでは?」
「プロフィットセンターに変われと言われても、関与できる範囲が狭まるなら、どうしようもないのでは?」
「リソースが限られる中小企業で、どう価値を生み出していけばよい?」
そのようなジレンマを抱えている情シス担当者もいらっしゃることでしょう。
しかし、外注増加とプロフィットセンター化は必ずしも矛盾しません。キーワードは、「役割の整理」です。「利益につながりにくい業務を外注し、利益につながりやすい業務に注力する」。こう考えることで、外注増加とプロフィットセンター化を両立する道が見えてきます。
では、具体的にどのような業務を外注し、どのような業務に注力すべきなのでしょうか。
外注すべき業務として、次のような業務が挙げられます。
[外注すべき業務]
■社内PCのキッティング
■IT資産管理
■ヘルプデスク
■インフラ構築・運用・保守
■定型セキュリティオペレーション
これらの業務は、利益につながりにくいという特徴がありますが、標準化しやすいという特徴もあります。技術や経験を持つ専門業者に任せることで、コストと品質の両面でメリットが得られることがあります。
一方で、情シスが注力すべき業務として、次のような業務が挙げられます。
[注力すべき業務]
■SFA/CRM導入により営業業務の品質向上
■MA導入により集客数向上
■WebサイトのUI/UX改善により集客数向上
■RPA導入により業務効率化
■新規サービスの企画・設計
これら業務は利益につながりやすい業務です。ここに情シス部門のリソースを集中させることで、プロフィットセンター化が進みやすくなるでしょう。
最後に、情シス部門のプロフィットセンター化を成功させるためのポイントをお伝えします。
プロフィットセンター化といっても、情シス部門が直接的に利益を生み出していくわけではありません。基本的には、営業部門や製造部門、物流部門といった現場部門を通じて間接的に利益を生み出していく形になります。
そのため、当然のことながら、現場部門に対する理解がなければ成果は出ません。当たり前のことではありますが、現場部門に寄り添り、業務や課題を理解しようとする姿勢が何よりも大切です。
これは、中小企業にとって、比較的取り組みやすいアクションではないでしょうか。
現場部門の業務や課題を理解することに加え、現場部門のITリテラシー向上にも努めたいところです。その手段としては、例えば、研修の実施、社内ポータルサイトにお役立ちコラムの投稿などが挙げられるでしょう。
現場部門のITリテラシーが向上すれば、情シス部門と現場部門双方でコミュニケーションがとりやすくなります。それだけ、現場部門のニーズが汲み取りやすくなったり、より的確な提案をしやすくなったりするでしょう。
また、現場部門のITリテラシーが向上すれば、情シス部門に対する初歩的な問い合わせやサポート依頼が減るため、情シス部門の負担も軽減されるでしょう。
「外注するのだから、その分野の技術はわからなくてもよい」――この発想はNGです。外注するにせよ、各種技術の全体像や基本原理は押さえておく必要があります。
外部ベンダーへの依存度を高めると、ベンダーの“好き”にされてしまうリスクや、トラブル発生時に対応できなくなるリスクが生じます。それでお金や人材などのリソースが消費されてしまえば、本末転倒です。プロフィットセンター化にも支障が出てしまうでしょう。
外注先は自社にない知見やノウハウを持っていることが往々にしてあります。中小企業は、学ぶためのリソースが限られていることもありますが、外注先を良き先生として見ることもできるのではないでしょうか。もちろん、得た知見・ノウハウはプロフィットセンター化にもいかせるでしょう。
あなたが所属する情シス部門では、外注を増やさざるを得ない状況でしょうか。
外注増加とプロフィットセンター化は必ずしも矛盾しません。外注すべき業務と注力すべき業務を整理することで、新しい道が見えてくるでしょう。
中小企業には、俊敏性や柔軟性といったメリットがあります。大手企業とは比較にならないスピードで一気に変革していくことも考えられます。
プロフィットセンター化の道を歩む上で、本記事の内容がご参考になれば幸いです。
著者:松下一輝
千葉大学大学院修了後、大手システムインテグレータに入社。通信キャリアを担当する部署にて、業務システムやWebアプリケーションの設計・開発に携わる。次第にプレゼン能力が評価されるようになり、製品説明や事業戦略紹介などのプレゼンも任されるように。やがて「伝える」ことへの関心が高まり、フリーのライター/ジャーナリストに転身。現在、IT分野やビジネス分野を中心に記事を執筆している。
(TEXT:松下一輝、編集:藤冨)
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