INDEX
――情シスの世界に入られたきっかけと、これまでのご経歴を教えてください。
堀内さん(以下、敬称略):私はMIXIが3社目になります。学生時代は情報システムの専門学校でプログラミングを学んでいたのですが、就職活動の時期がリーマンショックによる就職氷河期と重なってしまいまして。厳しい状況の中、内定が出た事業会社の情報システム部門に就職を決めたのが、情シスとしてのキャリアの始まりです。新卒だったこともあり、まずはヘルプデスクからのスタートでした。
株式会社MIXI はたらく環境推進本部 コーポレートITサービス部 事業サポートグループ 堀内 佳苗さん
――1社目ではどのような経験を積まれましたか。
堀内:ヘルプデスクがスタートではありましたが、情シスの人数が少なかったこともあり、「基本的になんでもやる」という姿勢が自然と身につきました。拠点数が多い会社だったので、新しい拠点のネットワーク手配や、新規で立ち上げるグループ会社のITサポート、本社の移転対応など、幅広い経験をさせていただきました。
――その後、2社目を経てMIXIに参画された経緯を教えてください。
堀内:2社目は、1社目でお付き合いのあった企業の社長から「情シス部門を立ち上げたいから来てほしい」と声をかけられて転職しました。いわゆる「ひとり情シス」で、情シスがいない状態からのスタートだったので、社内のIT環境を一から整備しました。
ただ、一通り整備が終わると運用フェーズに入ります。そうなると新しいことに挑戦する機会も減ってしまって。「もっと新しいことにチャレンジしたい」と考えて転職活動を始め、MIXIへの入社を決めました。
――MIXIに入社されてからは、どのようなプロジェクトに携わってこられましたか。
堀内:ちょうどプロジェクトが次々とスタートするタイミングで入社したこともあり、会社の変化に伴う大きなプロジェクトに複数携わることができました。代表的なものは、本社移転プロジェクト、コロナ禍におけるリモートワーク対応、ヘルプデスク体制の構築ですね。
――キャリアの中でターニングポイントとなったプロジェクトは何でしょうか。
堀内:本社移転プロジェクトは、自分自身にとって大きかったです。情シスとひと言で言っても、ITがカバーする範囲は非常に広範囲です。特に、本社移転プロジェクトでは、総務部門と協力しながら、会議室にどのようなIT設備が必要かといった、ファシリティに近い部分まで担当しました。
通常の情シスの担務よりも広い範囲の業務を経験できたことは、とても良かったです。物品管理や情報機器の廃棄に至るまで、引っ越しに関わるあらゆることを「自分事」として捉え、最後まで責任を持つという意識が強固になりました。
――本社移転後、トラブルや想定外の出来事はありましたか。
堀内:ちょうど本社移転後にコロナ禍に突入したこともあり、想定外の出来事はいろいろと起きました。移転前には、もちろんパンデミックによる働き方の変化は想定していませんでしたから。例えば、社員が集まって朝会ができるようにと大型モニターを設置したのですが、皆が出社しなくなった結果、ほとんど使われなくなってしまって。「このモニターをどう有効活用しようか」という新たな課題が生まれました。リモートワークに必要な機材が足りなくなる一方で、使われない設備も出てくるという、まさに想定外の連続でしたね。
――リモートワーク対応では、具体的にどのような取り組みをされたのですか。
堀内:なによりPC環境の整備が急務でした。具体的には、オンプレミスのActive DirectoryからAzure AD(現Microsoft Entra ID)への移行を進め、PCのキッティングもWindows Autopilotを導入して自動化しました。これによってユーザー自身でPCのセットアップができるようになったのですが、新たな課題も出てきまして。
Autopilotでキッティングできるようにしたのはいいものの、その後ユーザー側で設定などを操作した結果、手動でアップデートをかけなければいけない状況がしばしば発生するんです。今はその部分をヘルプデスクとして私たちが代行で対応している状況です。今後このあたりの体制も整備していかなければいけないところです。
――MIXI社のヘルプデスク体制の構築にも尽力されたと伺いました。
堀内:私が入社した頃は、社員が「日直」として持ち回りでヘルプデスクを担当していました。ですが、会社の規模拡大に伴い、その体制では対応しきれなくなっていたんです。そこで、外部のリソースを活用した新しい体制づくりに着手しました。最終的には、一次対応を外部委託し、エスカレーションが必要な案件だけを社員が引き取る体制を構築しました。
オフィス移転直後(2020年5月)のヘルプデスク
――ヘルプデスク体制を再構築する上で、重視したコンセプトや方針はありますか。
堀内:「役所仕事をしない」ということです。定型的な回答で「できません」と断るのではなく、従業員に寄り添い、代替案を出せるような対応を大事にしています。委託先で判断が難しい問い合わせは、必ず社員が引き取って、最適な解決策を提示するようにしています。
――現在、ヘルプデスクに関して新たな取り組みはありますか。
堀内:今はヘルプデスクにおけるAIの活用が大きなテーマです。これまで「寄り添う姿勢」を大切にしてきたことで、従業員の満足度は高く維持できていました。AIを導入することで、問い合わせへの応答のスピードは上がる一方で、対応がシステマチックになり、満足度が下がってしまうのではないかという懸念があります。AIによる効率化・自動化と、これまで培ってきた「寄り添う姿勢」をどう両立させるかは今後の課題です。
現在、問い合わせツールはアトラシアン社の「JIRA」を使っていますが、フリーテキストで問い合わせを受け付けているため、自動化にあたってはまだ課題があります。今後は「Jira Sarvice Management」を導入し、問い合わせフォームに入力項目のフィールドを設け、必要な情報を構造化することで問い合わせの自動処理がしやすい形にしなければと考えています。AIの活用により、ヘルプデスク業務全体の効率化を目指しています。
――日々の業務が多忙な中、情報収集はどのように行っていますか。
堀内:社外との情報共有は、今まさに力を入れなければいけないと感じている部分です。昨年から「みんなで話そうコーポレートIT」というイベントを定期的に開催しています。社外の情シス担当者の方にも参加していただき、ざっくばらんに会話をする場です。MIXIからも情報を提供しますし、他社からも情報収集ができる、良い循環が生まれつつあります。ちなみに、次回のテーマは「ヘルプデスクのKPI」で、私が主催者です。
――情シス部門の人材育成ついて、取り組まれていることはありますか。
堀内:育成は、一番の課題だと感じています。これまで、私たちの部署では、中途採用で即戦力となる方を採用してきました。結果として、その領域に詳しい人がそれぞれ専任で担当する形になっています。本当は、部署内で業務をローテーションして、全員が色々な経験を積めるようにするのが理想なのですが、リソース的に厳しい現状もあり、なかなかそのフェーズに行けていない状況です。
「情シスのキャリアパス」という話題はよく出ますが、私自身は「キャリアパスなどない」と思っています。技術の変遷が激しい中で、今、目の前にある課題や仕事に取り組むことが、長期的な目で見たときにキャリアになっていくのだと感じています。
――情シス担当者として、モチベーションの源泉や、やりがいは何でしょうか。
堀内:ヘルプデスクの経験が長いからかもしれませんが、やはり従業員から直接感謝されたり、頼られたりすることが一番のモチベーションです。また、新しい技術やサービスをいち早く検証し、従業員に提供する側として経験できることも、この仕事の大きな楽しみですね。
――最後に、今後のご自身のキャリアについて、どのようにお考えですか。
堀内:まず前提として、ずっと情シスの仕事に携わっていきたいなと考えています。個人的な志向としては、実際に手を動かして従業員の困りごとを解決したり、オペレーションを改善したりする「現場の作業」が好きなんです。
理想を言えば、事業部側の業務内容や課題を深く知りたいという考えはあります。事業の内容を深く理解し、情シス業務に持ち帰ることで、事業部に寄り添った、より良い提案をすることができるはずですから。
インタビューを通じて最も印象に残ったのは、「情シスにキャリアパスはない」という言葉である。計画された道を歩むことよりも、目の前の課題に真摯に取り組むことがキャリアになるという力強いメッセージであると感じた。堀内さんのその姿勢は、社内に留まらず、社外との交流を通じて知見を循環させるハブとしての役割を実践している。変化の激しい環境で、これからの情シスには、このように外部と積極的に繋がり、自社に合った新しいアプローチを取り入れていく主体性が不可欠となるだろう。(情シスのじかん編集部)
堀内 佳苗さん
株式会社MIXI はたらく環境推進本部 コーポレートITサービス部 事業サポートグループ
事業会社の情シス担当としてキャリアを開始。ヘルプデスクを起点として幅広く情シスとしての業務を経験したのち、2社目となる事業会社でひとり情シスとして情シス部門の立ち上げを担う。2018年より株式会社MIXIに入社し、本社移転やヘルプデスク体制の構築など、複数のプロジェクトをけん引。現在は事業サポートグループのマネージャーとして、ヘルプデスクや海外拠点支援の業務を統括するほか、MIXI主催の情シスイベント「みんなで話そうコーポレートIT」の運営にも携わる。
■株式会社MIXIについて
株式会社MIXIは、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」をパーパスに掲げ、国産SNSの草分けであるmixiを起点として、デジタルエンターテインメント、スポーツ、ライフスタイルの各領域で多彩な事業を展開する。
執筆:羽守ゆき
大学を卒業後、大手IT企業に就職。システム開発、営業を経て、企業のデータ活用を支援するITコンサルタントとして10年超のキャリアを積む。官公庁、金融、メディア、メーカー、小売など携わったプロジェクトは多岐にわたる。現在もITコンサルタントに従事するかたわら、ライターとして活動中。情シスのじかんでは企画立案から執筆、編集を担当。
30秒で理解!フォローして『1日1記事』インプットしよう!