About us 情シスのじかんとは?
ランサムウェア攻撃とは、悪意のあるプログラムが企業のシステムを暗号化し、身代金を要求するサイバー攻撃の一種です。ここでは、直近で大きな被害を受けた企業を紹介しながら、ランサムウェア攻撃の基本を押さえておきましょう。
2024年7月、出版大手のKADOKAWAがランサムウェア攻撃を受け、大量の個人情報が流出しました。また、長期間にわたってシステムが停止し、サービスも同様に停止に追い込まれ、同社はこれらの被害に対応するため大規模なシステム改修を余儀なくされました。この事件は、国内でのランサムウェア被害の深刻さを象徴するものであり、多くの企業がセキュリティ対策の強化を迫られるきっかけとなりました。
同年、伊藤忠テクノソリューションズもランサムウェア攻撃の被害に遭い、内部システムが一時的に停止する事態となりました。2024/8/13に発覚し、三日経過した8/16現在、いまだ被害の全貌が見えていない状況です。大手IT企業がターゲットとなるケースが増えており、より高度なセキュリティ対策が求められています。
海外でもランサムウェアの脅威は拡大しており、2024年パリ五輪に向けた競技会場「グランパレ」が攻撃を受けました。このような大規模イベントに関連する施設も狙われることから、あらゆる分野での注意が必要です。
情報漏えいが発覚した瞬間、情シス部門は迅速な対応を求められますが、実際の現場ではどのような困難に直面するのでしょうか。ここでは、初動対応の重要性と、情シス部門が直面する現場のリアルな課題について、さらに深掘りして解説します。
情報漏えいが発覚した瞬間から、情シス部門にはタイムクリティカルな対応が求められます。第一に、攻撃の拡散を防ぐために、被害が発生したシステムの切り離しや、ネットワーク全体の一時停止が必要です。この判断は、ビジネスへの影響を考慮しながら、迅速かつ正確に行わなければなりません。特に、中小企業の場合、ITリソースが限られているため、こうした対応を一人、または少数のメンバーで行わなければならない場合もあります。
初動対応の一環として、影響を受けたデータの範囲を把握し、被害規模を特定する作業が始まります。このプロセスには、ログの分析や外部のセキュリティ専門家との連携が必要となることが多く、時間と技術力が要求されます。しかし、日常業務の合間を縫ってこの作業を行う情シス部門にとって、時間的なプレッシャーは計り知れません。
また、初動対応で重要なのは、適切なコミュニケーションです。経営陣への報告はもちろん、従業員や顧客に対する情報開示も迅速に行う必要があります。特に顧客情報が流出した場合、信頼回復のために迅速かつ誠実な対応が求められます。このように、技術的な対応と同時に、コミュニケーション面での対応も欠かせません。
情報漏えいが発覚した後の現場は、緊迫感が漂う中で多くの課題が浮き彫りになります。情シス部門は、多岐にわたる業務をこなす中で、限られたリソースをどのように効率的に配分するかに頭を悩ませます。特に、中小企業においては、専任のセキュリティ担当者が不在の場合が多く、日常業務とトラブル対応を同時進行で行わなければならないことが一般的です。
一方で、従業員の間では不安が広がります。特に、個人情報が流出した場合、その影響がどれほどの範囲に及ぶのか、今後の業務にどのような支障が出るのかといった懸念が生じます。情シス部門は、こうした不安に対して迅速かつ正確な情報を提供し、混乱を最小限に抑える役割を担います。また、従業員が自発的にセキュリティリスクを報告する体制を整えることで、二次被害の発生を防ぐことも重要です。
さらに、経営層との連携も欠かせません。経営陣は、ビジネスへの影響を最小限に抑えるために迅速な判断を求められますが、そのためには情シス部門からの正確な情報提供が必要です。このように、現場での技術的な対応と並行して、組織全体の調整を図ることが求められます。
最終的には、こうした初動対応が迅速かつ的確に行われるかどうかが、被害の拡大を防ぎ、企業としての信頼を維持する鍵となります。しかし、現実的には、限られたリソースやプレッシャーの中で、すべての対応を完璧にこなすことは難しいため、情シス部門は事前の準備と社内教育の徹底が求められます。
ランサムウェア攻撃を受けた後、被害を受けた企業が直面するのは、単にシステムの復旧だけではありません。再発防止や今後のリスク軽減に向けた、セキュリティ対策の強化が不可欠です。ここでは、トラブル処理後に情シス部門が取り組むべき具体的な対策について、さらに詳しく解説します。
ランサムウェア攻撃を防ぐために、社員一人ひとりのセキュリティ意識を高めることが最も基本的かつ効果的な対策です。実際、サイバー攻撃の多くは人的ミスを起点に発生しています。例えば、フィッシングメールに騙されて悪意のあるリンクをクリックしてしまったり、不要な添付ファイルを開いてしまったりすることで、ランサムウェアが企業内に侵入することが少なくありません。
情シス部門が最初に取り組むべきは、全従業員へのセキュリティ教育の徹底です。教育内容としては、基本的なセキュリティリスクの認識、怪しいメールの見分け方、正しいパスワード管理の方法、そしてセキュリティインシデントが発生した際の対応手順などが含まれます。また、単発的な教育だけでなく、定期的な研修やシミュレーション訓練を行うことで、従業員のセキュリティ意識を継続的に高めることが求められます。
さらに、セキュリティ教育を社内の特定の部門だけに留めるのではなく、経営層も含めた全員が対象となることが重要です。経営陣がセキュリティリスクを十分に理解していなければ、適切な投資判断や対策の実施が後手に回る可能性があるため、全社的な意識改革が不可欠です。
トラブル処理後に取り組むべきもう一つの重要な対策は、多層防御(Defense in Depth)を構築し、強化することです。多層防御とは、セキュリティを複数の層でカバーするアプローチで、特定の防御手段が突破された場合でも、他の防御層が残りのリスクを補完する仕組みです。このアプローチにより、攻撃者が一つの脆弱性を突いたとしても、被害を最小限に抑えることができます。
まず、基本的なセキュリティ対策として、ファイアウォールやアンチウイルスソフトウェアの導入はもちろんのこと、これらを常に最新の状態に保つことが必要です。しかし、これだけでは不十分であり、次に重要なのが侵入検知システム(IDS)や侵入防止システム(IPS)の導入です。これにより、ネットワーク内での不審な動きをリアルタイムで検知し、迅速に対応することが可能になります。
データの暗号化も不可欠な要素です。特に、重要な機密データにアクセスする際に、強固な暗号化技術を用いることで、万が一データが流出した場合でも、その情報が簡単に読み取られないようにすることができます。クラウドストレージを利用している企業では、クラウドサービスプロバイダーのセキュリティ体制も見直し、必要に応じて追加の暗号化を施すことが推奨されます。
加えて、バックアップ体制の見直しも重要です。ランサムウェア攻撃の多くは、企業のデータを暗号化してアクセス不能にし、身代金を要求するものですが、最新のバックアップがしっかりと存在していれば、被害を最小限に抑えることができます。定期的なバックアップの実施と、そのデータの保存場所を分散させることで、万が一の際のリカバリーがスムーズに行えるようになります。
最後に、ゼロトラストセキュリティの導入も検討する価値があります。ゼロトラストは、「誰も信頼しない」という前提で、社内外を問わずすべてのアクセスを検証するセキュリティモデルです。これにより、内部からの攻撃や内部に侵入した脅威にも対応できるようになります。従来の境界型防御からの脱却が、今後のサイバーセキュリティ対策の大きなテーマとなってきています。
ランサムウェア攻撃の再発防止には、セキュリティインシデント対応計画(Incident Response Plan: IRP)の整備が重要です。これは、サイバー攻撃が発生した際に、企業全体でどのように対応するかを明確に定めた計画書であり、迅速かつ効果的な対応を可能にします。IRPは、情シス部門だけでなく、経営層、法務部門、広報部門、さらには外部の専門家など、複数の関係者が連携して作成し、定期的に見直しを行うことが求められます。
IRPには、攻撃の検知から対応、復旧、そして事後の分析に至るまでの各ステップが含まれます。また、具体的な役割分担やコミュニケーションのフロー、外部機関との連携方法も明記することで、実際にサイバー攻撃が発生した際に、混乱を最小限に抑え、迅速な対応を可能にします。
著者:犬を飼っているゴリラ
大手IT企業に入社し、フロントエンド、PFシステムの開発に従事。その後、IaaSサービスなどの各種サービス事業開発に携わったのち、大手HR・販促事業会社に転職した。2018年にMBAを取得し、現在も国内大手メーカーの新規事業企画、プロダクトオーナーなどを担っている。
(TEXT:犬を飼っているゴリラ、編集:藤冨)
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