About us 情シスのじかんとは?
「JTC」(日本の伝統的な会社)は、コロナ禍以降のIT業界において注目される言葉です。COVID-19の影響で多くの企業がリモートワークやデジタル化に踏み切る中、日本の一部企業では、従来の「アナログ体質」が障壁となり、変革が難航しました。この現象が揶揄を込めて「JTC」と呼ばれるようになり、特にIT業界での不満が噴出しました。
紙の書類やハンコを使い続ける文化、意思決定に時間がかかる会議中心の運営、年功序列に基づく人事などがJTCの典型的な特徴です。これらの要素は、社員の独自判断を制約し、環境の変化に迅速に対応できない企業文化を生み出しています。結果として、企業はデジタル化の流れに乗り遅れ、リモートワークなどの導入も遅延しました。
「アナログ文化」は、外部からは「時代遅れ」と批判されがちですが、長年の経験や確立されたプロセスを重視する面もあります。銀行や不動産など長年存在する業界で生き残ってきた企業でもあり、そのアナログなやり方が顧客に支持されてきたからこそ生き残って来れたことも事実です。JTCを支持する顧客らは、支持する理由がありつつも、サービスの向上やガバナンスの近代化などを求めています。
経営学の世界では、こうした企業が提供する価値を生み出す中核的な能力を「オーディナリーケイパビリティ」と言います。逆に、デジタル技術のように臨機応変に外部環境に順応していくための能力を「ダイナミックケイパビリティ」と呼びます。会社にはこの両方が必要です。JTCという言葉は、デジタル時代における課題として浮き彫りになりましたが、逆に「改革の枕詞」として捉えることで、会社のダイナミックケイパビリティを鍛え、変革を推進するキッカケになるのです。
JTCにおいて、情シス担当者はデジタル変革の推進者として重要な役割を担っています。JTCが持つオーディナリーケイパビリティ(通常業務の強み)を活かしつつ、環境の変化に適応するダイナミックケイパビリティ(デジタル技術)を強化することで、企業全体の効率化と競争力の向上に貢献することができます。
情シスが果たすべき役割は、オーディナリーケイパビリティの価値を保ちながら、ダイナミックケイパビリティを補強することで、企業の持続的な競争力を支えることにあります。JTCには、根強い紙文化やハンコ文化、年功序列の意思決定プロセスなど、安定性を重視する伝統的な要素が存在します。しかし、この安定性と継続性の力を活かしつつも、変化に対応する柔軟性を持たせることが求められています。そのためには、デジタルリテラシーの向上や、デジタルツールの導入を通じて社員の業務プロセスを再構築し、スピーディな意思決定や情報共有を促進することが重要です。これにより、JTCであっても、業務効率化とデジタル文化の定着が実現できるのです。
※関連記事:データのじかん「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)とは? オーディナリー・ケイパビリティとの違いや3つの構成要素も解説」
情シス担当者がまず取り組むべきは、デジタル化を通じたダイナミックケイパビリティの拡充です。
基礎的な取り組みとして行うべきなのは、日常業務におけるデータの一元管理や、情報の共有化、ペーパーレス化の推進が挙げられます。JTCではいまだに紙に押印して契約書保存することや、担当者のPCに会社の重要な情報を保存する業務が残ってしまっています。まずは最低限、こうした紙による管理や、個々の担当者のPCにデータを保存することを解消すべきです。最初はExcelやWordに情報を入力してクラウドストレージに保存するだけでも構いません。慣れてきたら会社全体のワークフロー管理ツールや経理システムなど基幹となるシステムを導入しましょう。
比較的簡単にできる施策として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や生成AIを活用することで、定型業務の自動化が進み、社員がより高度な業務に集中できる環境が整備されます。こうした変革は、ルーチン業務の効率化を通じて、オーディナリーケイパビリティの強化に繋がり、企業全体の生産性向上を促します。
企業に長く導入されている古いシステムは、しばしば「技術負債」を抱えています。技術負債とは、システムやソフトウェアが時代に合わない技術やアーキテクチャのまま放置され、保守や機能追加が困難になる状態を指します。初期の導入時には適していたシステムも、時代の変化や新技術の進展によりその有用性が低下し、メンテナンスに多くのリソースが必要となるため、企業にとって負担となります。その様はまさに負債を抱えているようです。
技術負債を解消するためには、システムのモダナイゼーション(近代化)が不可欠です。モダナイゼーションとは、リファクタリングや、インフラのリプレースメントによってシステムの構造を最適化し、最新技術や新たな業務ニーズに対応できるように再設計することです。例えば、業務アプリケーションをクラウドベースに移行する、レガシーコードを最新のプログラミング言語に置き換えるといったアプローチが考えられます。こうした取り組みにより、将来の維持管理が容易になり、効率的な業務プロセスが実現します。
どんなに優れたシステムも最終的にはクローズする必要があります。JTCでは長く安定的に業務を行うために、システムも長期間の運用を前提に設計されています。安定する一方で、あまりに長く運用されると、導入時の背景情報や目的が失われ、クローズする方法がわからなくなってしまうことも良くあります。情シス担当者は計画的な更新のスケジュールを策定し、システムのライフサイクルを把握することが求められます。モダナイゼーションは一度行えば終わりではなく、継続的な改善が必要です。技術負債を解消しつつ、新しい技術やニーズに応じて柔軟に対応できる環境を整備することが、情シス担当者にとって重要な責務となるでしょう。
JTCで働く情シス担当者にとって、アナログ文化が色濃く残る環境でのデジタル化は難題に見えますが、企業の未来を築く重要な役割でもあります。情シスは、長年の業務の強み(オーディナリーケイパビリティ)を尊重しつつ、技術革新(ダイナミックケイパビリティ)を導入し、変化への柔軟性を持たせることで企業全体の効率化を図るべきです。
古いシステムが抱える技術負債の解消(モダナイゼーション)によって、組織の変革を支える基盤を構築し、安定した業務を提供し続けると同時に、デジタル文化の定着に貢献できます。情シス担当者は、JTCでこそ活かせるリーダーシップを発揮し、次世代のIT基盤を築く「変革の推進者」としてキャリアを積み上げられるのです。本稿が、情シス担当者がJTCに所属するからこそ作れるキャリアを築く最初の一歩を後押しできますと幸いです。
著者:犬を飼ってるゴリラ
大手IT企業に入社し、フロントエンド、PFシステムの開発に従事。その後、IaaSサービスなどの各種サービス事業開発に携わったのち、大手HR・販促事業会社に転職した。2018年にMBAを取得し、現在も国内大手メーカーの新規事業企画、プロダクトオーナーなどを担っている。
(TEXT:犬を飼ってるゴリラ、編集:藤冨啓之)
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