エッジコンピューティングは、データ処理手法の一つで、データを”近い場所”で処理します。
従来、データ処理は、中央サーバーやデータセンター、クラウドといった中央集権的なシステム(以下「中央システム」とする)で一括して行う方法が主流でした。例えば、小売業では、店舗内カメラで収集した来店客の行動データは、中央システムで処理するのが一般的でした。
しかし、エッジコンピューティングでは、データ処理を、中央システムで行うのではなく、データの発生源(カメラやセンサー、デバイスなど)に物理的に近い場所で行います。必要に応じて中央システムとも連携します。
人間の体の仕組みに例えるなら、従来のデータ処理手法は全ての情報を脳で処理するイメージで、エッジコンピューティングは体の各部位が一部の情報を自律的に処理するイメージです。
どちらの方法が適しているかは、状況や用途によって異なります。
なお、エッジコンピューティングにおいて、データ処理を行う端末は「エッジデバイス」と呼ばれます。
エッジコンピューティングのメリットとして、主に次の4つがあげられます。
エッジコンピューティングでは、データを発生源に近い場所でリアルタイムに処理するため、レスポンスが向上します。
エッジコンピューティングでは、データをエッジデバイスで処理した後、必要最低限のデータのみを中央システムに送信するため、通信量を削減できます。その結果、ネットワークの負荷が軽減され、安定かつ効率的な通信が実現します。
エッジコンピューティングでは、中央システムへの依存度が低いため、ネットワーク障害時や中央システムダウン時でも、業務を継続しやすくなります。
エッジコンピューティングでは、中央システムに送信するデータが必要最小限となるため、言い換えれば外部ネットワークに晒されるデータが必要最小限となるため、セキュリティリスクが軽減されます。
ここで、エッジコンピューティングの代表的な活用例を3つご紹介いたします。
コンビニなどの小売店では、店舗内にカメラを設置して来店客の行動データを取得しています。これは、マーケティングや売り場作りなどに活用するためです。しかし、映像データをそのまま中央システムに送信する場合、通信コストが膨大になります。
この問題に対して、エッジコンピューティングを活用すれば、映像データを店舗内で処理できるため、位置データだけを中央システムに送信できるようになり、結果として通信コストを削減できます。
工場の生産ラインでは、センサーを用いて製品や生産機械の状態をリアルタイムで監視しています。これは、製品の異常や生産機械の故障を早期に検知するためです。しかし、センサーデータを中央システムで処理する場合、遅延が発生すると、重大なトラブルが起きても迅速に対応できないことがあります。
この問題に対して、エッジコンピューティングを活用すれば、センサーデータを即時処理できるため、重大なトラブルが発生した際にも、緊急停止や通報などの対応を即座に実行できます。
企業の勤怠管理システムには打刻機能が備わっていますが、ネットワーク障害が発生した際、打刻漏れが生じてしまう場合もあります。
この問題に対して、エッジコンピューティングを活用すれば、ネットワーク障害時でもエッジデバイスが打刻データを処理できるため、復旧後に自動同期を行うことで、打刻漏れを防止できます。
エッジコンピューティングは、情シス担当者が抱える課題を解決する手段となり得ますが、すべての企業に適しているわけではありません。その必要性は、業務内容や課題などによって異なります。
エッジコンピューティングが特に有効とされるケースは次の通りです。
・膨大な量のデータをリアルタイムで処理する必要がある
・多数のIoTデバイスを運用している
・データ処理の遅延が重大なトラブル(怪我や物損など)につながる場合がある
・クラウドサービス利用料の削減を目指している
・ネットワークが不安定なエリアで工場や店舗を運営している
・個人情報や機密情報の保護を強化したい
一方、データの処理や管理に特段の課題がない企業、あるいはそもそも扱うデータ量が少ない企業にとっては、エッジコンピューティングの導入は過剰な投資となる場合もあるでしょう。
エッジコンピューティングを導入した場合、情シス担当者の業務はどう変わるのでしょうか。主に次の2点があげられます。
エッジコンピューティングでは、データの発生源に近い場所にエッジデバイスを設置するため、拠点が多ければ多いほどデバイス数が増え、システムが複雑化します。そのため、情シス担当者には、システムを効率的に管理する仕組み作りが求められます。
「エッジコンピューティングのメリット」セクションで、エッジコンピューティングはセキュリティリスクを軽減するとお伝えしましたが、リスクがゼロになるわけではありません。そのため情シス担当者には、エッジコンピューティングに適したセキュリティ対策が求められます。例えば、エッジデバイスではセキュリティアップデートの適用が遅れがちであることや、物理的に盗難・破壊されるリスクがあることに、注意が必要です。
情シス担当者が押さえておくべき技術として、AIやクラウド、ローコード開発、DevOps、ビッグデータなど、様々なものがありますが、エッジコンピューティングもその一つです。
エッジコンピューティングには、レスポンス向上、ネットワーク負荷軽減、可用性向上、セキュリティリスク軽減などのメリットがあり、情シス担当者が抱える課題を解決する可能性があります。
ただし、エッジコンピューティングの導入が全ての企業にとって最適解になるとは限りません。企業の業務内容や課題などによってその必要性は異なります。
とはいえ、エッジコンピューティングは、情シス担当者が今後のIT戦略を考える上で重要な要素となり得ます。いずれにせよ、その基本的部分についての理解は深めておくことをおすすめいたします。
(TEXT:松下一輝、編集:藤冨啓之)
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